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畑での仕事全ての基本・酒井ワイナリー社長・酒井一平さん(H9卒)
(2021年1月7日山形新聞より)


酒井ワイナリー社長・酒井一平さん(H9卒)

 ―業界の現状と力を入れている取り組みは。

 「新型コロナウイルスの感染拡大前は日本ワインのブームがあり、全国的に新規ワイナリーの開業が相次ぐなど活況だったが、コロナ拡大後は需要よりも供給が上回る厳しい状況だ。家庭消費の高まりなどである程度は取り戻しつつあったが、今後の感染第3波の影響が気がかりだ。一方で、ブドウ生産者の減少が問題になっている。赤湯(南陽市)は特に急傾斜地の畑が多いため、後継者が増えず耕作放棄地が増加している。『産地として成り立つのか』という不安が出ている中、会社として畑を譲り受け、自社畑とすることに注力し、産地の維持・確立に努めてきた」

 ―海外ワインとどう勝負するか。

 「畑には平らな場所が少なく、機械化による大量生産は難しい。質の良いブドウを生かした高品質なものの生産しかないだろう。高級路線で赤湯という産地をブランド化したい」

 ―求める人材は。

 「とにかく農業を愛し、続けてくれる人だ。畑の仕事でワインの品質は9割方決まるため、畑できちんと仕事を続けられるかを重視している。畑での仕事が続けられなければ、醸造家としても大成しない。ブドウ栽培はワイン造り全ての基本だが、最初にして一番の難関でもある」

 ―その力を身に付けるために必要なことは。

 「ブドウ畑にいるといろいろな生き物がいて、自然の多様性を感じることができる。一つ一つのものに役割があって畑が成り立つとともに、ブドウやワインの出来にも影響を及ぼすなど、複雑に入り組んでいる。ここに気付くことが必要だ。単純に作業として仕事を行うのではなく、自然の恵みを感じる感性を持つことが大事だ」

 ―仕事上、最も影響を受けた人物は。

 「フランスの思想家クロード・レビストロース氏だ。赤湯は高温多湿で夏は暑く、冬は雪が降り、欧州と比べてブドウを育てるには大変な土地柄だ。なぜ赤湯でブドウを育て、ワインを造るのか。その意味を考えだした時に、著作と出会った。人と自然の関わりを自分なりに解釈した際、その土地ならではのワインを醸造するということの意味を教えてくれた」

■酒井一平(さかい・いっぺい) 東京農大大学院を修了後、2004年に入社。栽培や醸造を担当した後、12年に社長に就任した。南陽市出身。

■酒井ワイナリー 酒井家16代当主酒井弥惣(やそう)が1887(明治20)年、南陽市赤湯の鳥上坂にブドウ園を開墾し、92(明治25)年にブドウ酒醸造業に着手したのが始まり。東北最古のワイナリーで、2018年には高品質ワインを造るワイナリーを表彰する日本ワイナリーアワード最高賞の五つ星に選出された。社員数は9人。本社所在地は南陽市赤湯980。


 地域の人の息遣い感じる

 酒井一平社長は仕事前に山形新聞を読む。記事を俯瞰的に見て、県内や地元で何が起きているか、県民が何に興味があるのか、何をしたいのか、どういうことを喜んでいるのかを感じ取るという。「地域の人の息遣いが肌感覚で分かるのが地元紙の良さ」と話す。

 農業や経済、事件・事故など、ジャンルを問わずに読むが、情報が多岐にわたる地域版も愛読する。一つの事象を捉え想像力を膨らませ、自分、そして会社として何ができるかを考えることにつなげている。

 最近気になるのはイノシシの増加だ。農業が衰退し、耕作放棄地が増えたことが増加の一因になっているのだろうと考えており、地方が疲弊していることが見て取れるという。「会ったことのない人の声、考えに触れられるのは地元紙にしかできない」とした上で、「本当に地域に密着し、いろいろな人の声を吸い上げ聞かせてほしい」と要望した。