東北人らしいあったかい人・矢口さんと親交錦啓さん(S38卒)
(2020年11月26日山形新聞より)
矢口高雄さん
本県舞台の作品・取材案内など思い出数々
亡くなった漫画家の矢口高雄さん(秋田県横手市)は、代表作「釣りキチ三平」の中で、鶴岡市の大鳥池にすむとされる伝説魚を題材にした「O池の滝太郎」を描くなど、本県を舞台にした作品も多い。県内での取材案内や作品執筆の手伝いなどで矢口さんと親交のあった南陽市の錦啓さん(75・S38卒)は「東北人らしいあったかい人だった」と人柄をしのんだ。
30年ほど前、クモの糸がキラキラと空を漂う置賜地方で見られる現象「雪迎え」を、矢口さんが取材したのが出会いのきっかけだ。矢口さんはクモ博士や歌人として知られる錦さんの父・三郎さんの著書を参考にした。疑問があると三郎さんに電話をかけ、作品を描き上げたという。しかし、出版社による創刊の見合わせで、作品が世に出るまで数年を要した。その年に、三郎さんが亡くなり、矢口さんは自宅を訪れ霊前に本をささげた。「ほんとに義理堅い人。仕事も人付き合いも一切手抜きしない」と錦さんは振り返る。
高畠町高安地区で猟犬として飼われていた高安犬の物語「北へ帰る」では矢口さんに頼まれて吹き出しの言葉を置賜弁に“翻訳”する仕事を引き受けた。2006年には大江町で発見された「ヤマガタダイカイギュウ」の化石を取材したいと案内役を頼まれた。
この時、矢口さんと南陽市赤湯で酒を酌み交わした。その後のやりとりが印象に残る。ダイカイギュウの取材を思い返し「次々にストーリーが浮かんで眠れなかった」とうれしそうだった。「面白い自然現象があればどこへでも行く人。山形には引きつけるものが多かったんだろうな」と思いを巡らせた。
横手市で開催中の矢口さんの画業50周年記念展を見に行き、つい2週間ほど前、その感想を手紙につづっていた。「いつもすぐに返事をくれる、矢口さんらしくないなと気になっていた」と錦さん。「ふるさとを描く、詩情あふれる矢口さんの自然画が大好きだ」と惜しんだ。