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小学校英語来春から教科化・調音の方法教えるのも重要・金山等さん(S25卒)
(2019年12月12日山形新聞より)


金山等山形大名誉教授(S25卒)

 周知のように来年4月から小学校英語が教科化される。いよいよ本番である。未解決な問題も多々あるようだが、特に初期の学習に必要な音声指導(聞く、話す)についてはどうだろうか。専門家の間でも見解が分かれており、不安が残る。

 まず、ALT(英語指導助手)や音声教材を活用してたくさんの英語を聞かせれば、小学生は素直に吸収するから、それを真似る子供の英語は直す必要がないという主張がある。これは保護者や指導者の不安を取り除くのに効果的であるし、またある程度根拠がないわけではない。だが一方では、鳥飼玖美子教授(立教大名誉教授)のように発音の「基本は導入期にきちんと教えられる必要」がある(「危うし!小学校英語」)とする対立的な見方も多い。

 言うまでもないことだが、日本人の英語学習において考慮を要するのは、母語の日本語と学習対象である英語の距離である。語系が全く違い、距離があればあるほど、学習上、負の転移(干渉)が生じやすい。小学3、4年生ともなれば、すでに日本語の基本は身に付いている。転移は発音、語彙、文法、文化の全てに働くが、音声面は母語の干渉度が特に強い領域である。学習者は母語のフィルターを通して音声を聞き、話すことになるからだ。

 例えば、英語の子音「s」と「Θ(シータ)」はどちらも無声の摩擦音だが、対立する別な音素である。前者は調音点が歯茎、後者は歯にあり、発音の仕方が違う。しかし、日本語には「Θ」という音素は存在しないので、子どもは「Θ」音を聴けば、日本語のサ行子音に似ている「s」音と同化してしまいがちである。児童生徒は「Thank you」を「サンキュウ」と聴き取り、また発音しがちだ。だからそのままにしておけば、「s」音と「Θ」音との識別はもちろん、正確な発音も難しい。このような例はほかの音素にも多く、母音となると一層厄介である。音韻体系が異なる以上、当然のことなのだ。

 また母語の習得と外国語の学習では、それにかかわる時間に圧倒的な差がある。いくら小学校から英語の学習を始めても、追いつくものではない。だから、授業時間内での英語のインプットを増やした程度では、子どもが母語のように、自然に正しい発音を習得することを期待するのは無理である。そして怖いのは、間違いがそのまま刷り込まれてしまう(化石化)ことだ。矯正は容易ではない。私も小学生を教えてみてひどくてこずった経験がある。

 よく臨界期ということが話題になる。これは外国語を学習するには年齢の限界があるという仮説であって、まだ定説とはいえないが、大体思春期の始まるころ(12〜13歳)とされる。言語領域でも差があり、発音は6歳ごろまでとする説が有力だ。時に日本人にとって厄介な「r」と「l」を聞き分ける能力は、脳科学者によれば、生後6カ月で失われるという。日本語ではそれを弁別する能力を必要としないので、消失してしまうのである。

 以上のような理由で、私はやはり導入期には、コア(核)となる音は明示的に取り上げ、時にはその調音の方法を教えた方がいいと思う。ただ聞かせても弁別が難しい音でも、発音を訓練すると聴き取る能力も向上するといわれる。もちろん押しつけるのはよくないが、指導法次第では生徒は聴き分け訓練にも興味を持つ。検討に値する問題ではないだろうか。