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書評・故郷の「秘密」を知る楽しさ・清野春樹著「山形歴史探訪3」
(2018年11月28日山形新聞「味読・郷土の本より)


清野春樹(S43卒)著「山形歴史探訪3」

 清野春樹氏のシリーズ物「山形歴史探訪3」が出版された。今回は、たまたま私の日々の暮らしの場が取り上げられた。 (上山市北部−山形市南部界隈)

 地名の起源とか由来というものには、たいていの人が興味を示す。自分の家や村の歴史とかにかかわりつつ、自分の原点を確かめたいのであろう。

 さて、故郷の「地名」にはどんな秘密がひそんでいるか。それを探ろう・・・というとき、山形付近ではアイヌ語がしばしば援用される。ただし、それらは「和語化/漢語化」されたものであって、正確なアイヌ語ではなく「アイヌ語を語源とする地名」なのだと、清野氏は念を押している。無造作に和語地名をアイヌ語に結び付けることのないようにと慎重な配慮を求め、注意しているのである。語形(単語連語の認定も)・音韻・意義などを明確にせず、さらにその地の歴史的条件などを無視し、恣意的な引用をあえてして、「アイヌ語」を語源としたがる人たちが、かつては少なくなかったからだろう。

 だいぶ前のことだが、上山市内の地名を種に、某タウン誌に短文を書かせてもらったことがあったが、その折も地名解釈には、ものによって異論続出、百家争鳴(?)の感無きにしもあらずだった。例えば、上山の温泉に名付けられた「つるはぎ」は、アイヌ語の「ツルパキ」で、「湿地のくぼ地から湯がわくところ」が語源だそうだ。近くの集落「かなや」は「アイヌ語そのものだ」と教えてくれた人もある。「オグラ・タイコグラ」はもちろん「カマクラ・コクラ」も、アイヌ語が日本全国に広まった時代に付けられた名が遺存して、現代に至ったものだと教えられたとき、私は非常に驚き、「アイヌ語」で地名を解釈することの困難さを思った。

 清野氏は、こうした困難さを軽やかに乗り越え、山形各地の「秘密」を明らかにしようと企図されたものである。清野氏のこのシリーズは非常に楽しい。それぞれの土地に生命感がみなぎり、その土地に生きる人々の姿が、はつらつと、美しい。

 「やまがた地名伝説」(全5巻)と対照しながら、「アイヌ語辞典」などを手元に、夜長を楽しむのもいいだろうと思う。(不忘出版・1620円)

評著・片桐繁雄(郷土史家、上山市)

11月28日山形新聞