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カンボジアと歩む 水上村読み書き教える高橋真也さん(H12卒)
(2011年12月22日山形新聞)

高橋真也さん
高橋真也さん(H12卒)は水上村に暮らすベトナム人の識字教育や保健衛生向上に取り組む
=コンポンルアン

カンボジアと歩む 本県関係者の国際協力
 コンポンルアンの船着き場から小型のボートに乗り込む。その先に広がるトントレサップ湖には、いかだに乗った質素な家がひしめき合うように浮かんでいた。水上村だ。日本カトリック信徒宣教者会(JLMM)のボランティア・高橋真也さん(28・H12卒)=米沢市出身=は4年前から、そこで暮らすベトナム人たちにカンボジア公用語のクメール語を教える識字教室の運営や、保健衛生の向上に取り組んでいる。
 東南アジア最大の湖・トンレサップ湖には200〜300の水上村が存在するといわれている。コンポンルアン水上村には約1600世帯、約6千人が暮らす。うち7割がベトナム人で、ほかはカンボジア人など。ベトナム人たちは数世代前から水上にコミュニティーを形成してきた。クメール語が話せないため、公立小学校や陸地にある病院に通えず、公共機関でも意思を伝えられない。小学校に通う子どもは10人に3人ほどだ。
 「スヴァーイ(マンゴー)」「ボボー(おかゆ)」―。識字教室から、クメール語を復唱する子どもたちの声が聞こえてきた。下は5歳から上は13歳まで。年齢は違うが皆、小学校への進学を楽しみにし、真剣な表情で先生の話に耳を傾けている。高橋さんは教室の校長。欠席が続く子どもがいれば家庭訪問もする「気にかけている人がいると知ってもらいたい。識字教室が一生で最後の学びの場になるかもしれないから」。一昨年、昨年はそれぞれ約40人、約20人が識字教室を卒業し、全員が進学した。だが例年10人前後がすぐやめてしまうのだという。
 水上生活の大きな問題の一つに劣悪な衛生環境がある。生活排水や排せつ物は垂れ流しで、ごみが至る所に浮いている。その水を生活用水とし飲用水に使っている家庭も少なくない。子どもたちは湖の中を泳ぎ回っている。3年前に浄化装置を設置し、市場価格の半分で提供を始めた皮膚疾患を予防するため子どもたちを定期的に浄水で水浴びさせ、耳掃除、つめ切りの指導にも力を入れている。
 病気になれば命を落とす危険性も高い。重症の場合に限り、陸地の病院を受診する交通費を支援し、付き添いも行う。高橋さんは活動を始めて間もなく、ぐったりした赤ちゃんを車で3時間かけてプノンペンに搬送したことがある。病院に到着した頃には既に息を引き取っていた。ぼうぜんとしていると、家族から言葉を掛けられた。「そばにいてくれてありがとう」。涙が止まらなかった。日本では考えられないほど身近に「死」があった。
 「『豊かさ』ってなんでしょうね」と高橋さんは水上の家々を見渡した。生活するには過酷な環境だが、学校にいじめはなく、皆が笑顔を絶やさず、けなげに生きている、4年半暮らす中で、赴任当初の「助けてあげる」という一方的な気持ちはなくなった。「共に生きて、現地の人たちの願いをかなえるお手伝いをさせてもらっている。学んだことを日本に帰って社会に還元するのが私の役割」。今はそう考えている。ボートの上は、教室を終えた子どもたちが大きく手を振っていた。

高橋真也(たかはし・まさや) 米沢興譲館高から、新潟大人文学部に進みメディア論を専攻。卒業後の2005年11月に日本カトリック信徒宣教者会(JLMM)のボランティアとしてカンボジア入り。06年5月からコンポンルアン水上村で活動。水上村近くの町クロコーに住み、毎日、バイクとボートで通っている。任期は来年7月まで。


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◆トンレサップ湖:雨季にはメコン川の水が逆流して増水し、面積は管機の約3千平方キロから3倍以上の約1万平方キロに拡大する。300種類以上の淡水魚が生息し、水上村の住人たちの多くは漁業を営む。湖の大きさに合わせ、水上村も移動する。

12月22日山形新聞