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ヒットはタイトルの勝利 「世界一の美女になるダイエット」発売1ヵ月強で26万部 
食べて美しく山形は好環境 関美奈子さん(H3卒)
2009年6月15日山形新聞掲載記事

世界一の美女になるダイエット
世界一の美女になるダイエット


関さんが構成を担当した「世界一の美女になるダイエット」幻冬舎刊、1,365円

 

 プロ野球楽天の野村克也監督は「勝ちにまさかの勝ちあり、負けにまさかの負けなし」というがベストセラーも同じだ。
  「世界一の美女になるダイエット」という本がある。私はフリーランスの編集者として刊行に携わった。発売1ヵ月強で26万部という驚異的なヒットを記録している。狙ってベストセラーを作ったのなら大したものだが、まさかこれほど売れるとは思わなかった。
  自分の作った本が読者に届くということは、ある意味小さな奇跡だ。1日に出版される新刊書の数をご存じだろうか。正解は約200冊。これほどの新商品が毎日生み出される業界はどのぐらいあるのだろう。毎日増える本を置くスペースが書店にあるわけはない。かつ、初版部数は普通5000〜8000部ほどで、一つの本がすべての書店に届くということはない。本と出会うことを難しくしているのも出版業界なのだから、悲しんでばかりもいられない。この本が売れたという理由を考えた。
  わかりやすい、読みやすいという声も聞くが、筆頭にあげられるのはタイトルの勝利だ。ミス・ユニバースで世界一になった森理世や知花くららを指導した人が「ダイエット」について書いたのだ、さぞやせられるだろう、と思うだろう。
  しかしこの本は、単純なやせ方を紹介した本ではない。美しくなるために食べ物を味方につける方法を説いた。ダイエットとは本来、やせることを意味するのではなく、食事やそのとり方を意味するもの。決してまやかしのタイトルで読者を引っかけようとしているのではない。ダブルミーニングのようなタイトルにこそ、じつは筆者の気持ちが込められている。
  著者のエリカ・アンギャルさんはオーストラリア生まれで、日本に来て15年。日本の女性を見ていて、やせたいと、カロリーばかり気にしているが、「どう食べると美しくなれるのか」をまったく考えていないことを、栄養士の彼女は憂えていた。そして、和食という素晴らしいものがあるのに、ファストフードなど栄養が不足しているものを食べるのがもったいないと感じていた。食事こそが美しくなるための武器になることを伝えたい。そして、日本女性の美しさを世界に広めたいと思って、ミス・ユニバースのコンサルタントになった。
  彼女の新の主張は、ダイエット、つまり賢く食べることで美しくなろうというもの。健康的に食べることで身体機能があがり、やせたり、太りにくくなったりする。高い化粧品に頼らずに美しくなれ、そのおまけに健康がついてくるのだ。彼女の主張に共感し、実践したら効果があった。誠実で熱心な人柄にふれ、彼女の魅力を伝えたいと本づくりはより真剣になる。いい本には、そういう目に見えない力が閉じ込められている。
  外国人の食事法じゃ口に合わぬと思うなかれ。詳しくは本書を読んでいただきたいが、彼女の提唱する食事法の多くは、山形の人こそ実践するのに理想的な環境にある。旬の野菜だ。 時を重ねるごとに、山形の食を含めた環境がどれほど素敵なものかが、身体の奥深くに響くようになった。グルメガイドも編集・執筆したし、東京で食べ歩いたが、いちばんの贅沢は、米沢・成島で土日に立つ市場に行くこと、親戚や両親の友人が作ってくれた野菜を食べること(ありがとうございます!)。ゴマやクルミといった本でもすすめる食材が、無農薬で新鮮なまま食べられるのだ。東京でも最近は山形の食材が手に入りやすくなったが、まだ足りない。友人はみな、ひたし豆(青大豆)の存在をまったく知らなかったが、一度食べると病みつきになる。そんなものがもっとほかにもありそうだ。
  山形にある幸せを手放し、憧れたことなど一度もない東京にいるのは、本を作りたいがため。どんな企画、本にするか考え、いろいろな人に出会い、取材をして形にするのは、煩雑な作業を越えなくてはならないが、無上の喜びがある。ベストセラーを作るのは一つの夢だった。
  他にも叶えたいことがある。山形にあるいいものを広め、少しずつ消えかけているものを残すことだ。小学生のころは、通学路の角を曲がるたびに、織機のここちよいリズムが響き、染屋の排水溝からは湯気の上がる色水があふれていた。帰省しても、もう聞くことはほとんどない。
  とどめたいのは感傷からではない。奄美大島の紬、江戸切り子、黄楊櫛など手仕事の現場に取材に行くと、どこでも深刻な後継者不足や利用者の減少に悩んでいる。いいものはどんな社会になってもいい。しかし、時代の風で磨き、洗練させる必要があることを、エリカさんが伝統的な食の大事さを改めて訴える。この本を作る過程で学んだ。実現するにも私にできることは企画・編集することだけ。あちことぶつかり迷いながら、新しい企画に向かおう。
(編集者・ライター、米沢市出身)
 

 関美奈子さんは1972年米沢市生まれ。筑波大卒。東京・銀座にある出版社で海外旅行のガイドブック、女性誌、実用書の編集に携わり、2003年にフリーランスの編集者、ライターに。

6月15日山形新聞